2DAYフリーきっぷ

ライフワークとしてあちこち訪問している地方私鉄のローカル電車。 既にほぼ一通りは乗りつくしてしまった感があるが、中京圏でまだ行っていない鄙びた線区の存在する事にある日気づいてしまった。 それは、大手私鉄にあって近鉄、東武に次ぐ国内第3位の路線長を有する名古屋鉄道の支線達である。 なかには既に廃止されてしまったのもあるが、今年の夏はこの名鉄のローカル線区を中心にあちこち周ってみようと計画をたて、出かけてみた。 使った切符は「2DAYフリーきっぷ」、4,000円の投資で名鉄電車全線が連続2日間乗り放題となる。

photo
新幹線車内
ひかり505号は豊橋に停車する

往路

朝8時台の新幹線で西へと向かう。 ひかり505号は豊橋に停車してくれる数少ない貴重な列車だ。 座っているのはいつものE席、大抵お隣は空席なのだが、今日は珍しくD席に新横から女性が乗って来た。 例によって富士山は雲の中で、車窓にも飽きて惰眠をむさぼる。 東海道は18きっぷで何度も往復しているが、その中でいつも途中下車したくなる駅がある。 一つは弁天島、浜名湖に浮かんだ島の上にあるこの駅は、いつ通りかかってもリゾート地の明るい風がそよいでいる。 もう一つが蒲郡で、ギャンブルレースをやるわけではないが、海が近い事もあって何となくソワソワする。 その少し手前では海岸に大きな観覧車が見えたりもするので、余計に興をそそられるのかも知れない。 ボンヤリした頭の中でそんな事を考えているうち、豊橋に着いた。 ここで新幹線から快速大垣行きに乗り継げば、ボックス席でウトウトする間もなく、すぐにその蒲郡へと到着だ。

名鉄蒲郡線

高架2面4線のJR蒲郡駅、それに寄り添うように一体となった高架の名鉄駅が、足を踏み出してみた駅前広場から見える。 が、こちらは1面の島式ホームで、有効長もグッと短いようだ。 とりあえず切符を買おうとタッチ式券売機を探ってみたが、フリーきっぷの類は扱っていない模様。 窓口があったのでそこで尋ねてみると、駅員さんがビニールのパスケースに入れて渡してくれ、自動改札に通せますとの説明をしてくれた。 発車まで少し間が合ったので売店等を物色して時間を潰し、戻って来る。 さて入場しようと改札へ向かうと、そこに自動改札機は無いのだった。 入線のアナウンスを始めた駅員さんに切符をかざしてホームへ登ってゆくと、すぐに折り返し吉良吉田行きとなる電車がライトを煌々と点けて入線して来た。 暑さでムッとしたホームから冷房の効いた車内に入るとホッとする。 学校は夏休みに入ったとはいえ、平日昼間の車内はガラガラである。

photo
名鉄 蒲郡駅
蒲郡線は6000系ワンマン車の2両編成

バラバラに座った数名の客を乗せ、伝統の名鉄スカーレットを身にまとったワンマンの2両編成はスルスルとホームを発車した。 蒲郡を出てしばらくは市街地の上を東海道線と並行した単線高架で駆け抜けて行く。 驚いたのはその走りがこの上なく滑らかな事で、ローカル色濃いとは言えさすがに大手私鉄の線路状態は良い。 だがそれも次の蒲郡競艇場前駅までで、地上に降りて走り出すとガタンゴトンとこの線の本領を発揮し始める。 やがて車窓左手に遠く海が望めるようになる。 海と言っても渥美半島の内側だから、ここは波穏やかな渥美湾である。 さてまだ乗り始めたばかりだが、蒲郡から15分ほどで私は席を立った。

photo
東幡豆駅
蒲郡を出て6つ目の小さな無人駅

ワンマンなので運転士に切符を見せ、一番前のドアから小さなホームへ。 駅舎へは構内踏切で繋がっており、電車が発車して遮断機の上がるのを待って改札口へ向かう。 ここ東幡豆(ひがしはず)は無人駅なのでもちろん駅員はいないが、待合室には夏の陽射しを避けて地元のお年寄りが何人か談笑していた。 この駅へ来た切っ掛け、それは実はストリートビューである。 蒲郡線は比較的海に近い場所を走っているが、海岸ふちに出る区間は無い。 その中で一番海に近い駅を探したら東幡豆が出て来た。 そして、駅からすぐの海岸の光景をビューイングしているうちに、その素朴さにすっかり魅了されてしまったのである。

photo
駅前踏切
道の正面が海岸で、湾内に浮かぶ島が見える
photo
東浜
踏切から1分とかからずに、東浜の海岸に出る

小さな駅前広場を出て踏切を渡ると、なだらかな傾斜の道の向こうに、もう海と島影が見えている。 炎天下を歩いて行くとすぐに風景が開け、目の前に海岸が広がった。 ここは湾内でさらに堤防に囲われている港なため、波は殆ど無く静かだ。 かつては目の前にある緑の島々を観光船が巡っていたらしいが、今はそんな観光地の面影もなく、ひっそりとしている。 シーズンには潮干狩りも行なわれるらしいが、今は人の姿が全く無い。 駅で見かけた「かぼちゃ寺」という案内板を思い出して近くを探すと、海岸から一本裏手に入った通りに面して立派な山門が見えた。 ハス観音というのが正式名称の様だが、観音様からお告げを受けたこの寺の僧が、海岸に漂着した不思議な野菜を煮て村人達と食べたところ甘くて美味しく、皆健康になったとかいう話が掲示されていた。

photo
ハズ観音
かぼちゃ寺とも呼ばれるハズ観音

20分ほど周辺を散策して駅へと戻る。 蒲郡線は日中30分ヘッドだから、ひと電車遅らせればこれ位の散歩には丁度良い。 やって来た電車に再び乗り込んで、吉良吉田へと向かう。 リュックを背負った小学生位の兄弟だろうか、改札で見送る祖母とみられる女性に窓からしきりに手を振っている。 夏休みで遠くから遊びに来た帰りなのかな?と思っていたが、次の駅ですぐに降りて行った。 夏の海岸を歩いて大汗をかいたが、程よく効いた車内の冷房で、終点に着く頃にはTシャツの背中もすっかり乾いていた。

photo
東幡豆駅
小さな好ましいホームに赤い電車がよく似合う
button Next