近鉄生駒鋼索線(山上線)

ホームの階段を上って行くと、その先には上部軌道「山上線」の車両が発車を待っていた。 こちらもなかなか奇抜なデザイン、車両全体がケーキの形をしている。 宝山寺までは地域住民らしき人達も乗っていたがここから先は全くの山岳路線、しかも山頂の遊園地は冬季閉鎖中との事だから、午後のこの時間に乗るのは全くの酔狂に他ならない。 案の定、残ったのは私と先程の親子連れ、他に一人旅らしき人が数名のみだった。 こちらは発車するとすぐトンネルに入り、少しカーブして登り出すとその先にホームが出て来て停車、上部軌道には中間駅があるのだ。 誰も乗る人はいないだろうと思ったが、リュックを持った男性が一組、階段状のホームから乗り込んで来た。

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山上線梅屋敷駅
入口もホームも階段になっている中間駅

再び走り出すと途中の交換場で同じように奇抜な車両「ドレミ」とすれ違い、その後はまた次の中間駅で停車。 ケーブルカーの構造上、片方が停車すればもう片方も停まるので、間の駅は対称な配置で作らねばならない。 先程から車内には小さい子供を喜ばせようとメルヘンチックな放送が流れているが、そのターゲットとなりそうなのは残念ながら一人だけである。 生駒山上駅に着いて改札を出た途端、「さむっ」と思わず身震いしてしまった。 ほぼ山頂に位置するここは、全くの吹きさらしである。 目の前に遊園地入口が見えるが、事前に案内されていた通りフェンスで閉ざされ冬季閉鎖中の表示がしてある。

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山上線生駒山上駅
こちらはテーマパークの様な駅舎だ

とりあえず外にあるトイレで用を済ませ、さて帰りのケーブルが発車するまで30分間をどう過ごそうかと思いながら駅前広場に戻ると、閉鎖された遊園地フェンスの一部が開いており、そこから親子連れが中に入って行くのが見えた。 各アトラクションは営業していないが園内には入っても良いようで、私も後を追って一通り中を巡ってみた。 しかしひと気の無い遊園地というのは殺風景なもので、お日様が傾き出す頃合いでもあるし、何だかうらぶれて来てしまう。 客のいない売店前の陽だまりには猫が数匹、お互いにじゃれ合ったり、体を温めたりしていた。 駅前に戻ると暖房の効いた待合室があったので、一人ベンチに腰掛け赤飯結びと暖かい焙じ茶のペットボトルで残りの昼食。

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生駒山上遊園地
親子連れの影が長くのびる午後
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生駒山上遊園地
園内から大阪東部の平野が見渡せる

時間になり、下りケーブルも相変わらず同じ顔ぶれの乗客が揃い、ゴトゴトと同じ車両で生駒の山を後にした。 途中の分岐では登りと同様右側通行ですれ違うかと思いきや、あれれ、来た時と同じ線路に入ってゆく。 だがそれは至極当然のこと、同じ車両は常に同じ側に分岐しないと繋がっているワイヤーが絡まってしまうのだから。 途中、宝山寺で乗り継ぎ、降り着いた鳥居前のホームにはスーパーの買い物袋を両手に下げて待っている主婦の姿もチラホラ。 やはり下部軌道の宝山寺線は生活路線の性格が強いようだ。 生駒から再び奈良線の電車に乗り、近鉄奈良駅の地下ホーム着は17時過ぎ。 階段から改札口から、降車客がやたらごった返しているのは何故だろう? その理由はこの後すぐ知ることになるのであった。

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山上線「スイート」
形式コ15。バースデーケーキ美味しそう

奈良宿泊

駅の地下コンコースには「お帰りの切符は今のうちにお求めを…」とのアナウンスがしきりに流れている。 ん?これはただ事じゃないぞ、と思いながら歩を進めると、壁に大きなポスターが貼ってあり、「若草山焼き」とあった。 全く知らずにやって来たが、本日はあの春の風物詩である若草山の山焼きが行なわれる日であったのだ。 外に出ると、会場へと向かって通りをそぞろ歩く人達が列をなしている。 私はその流れに逆らって歩き、JR奈良駅近くの宿へチェックインして荷物を置いてから見物に出てみた。

しかし、下調べをして来なかったので若草山まで歩いて行けるのか良く分からない。 そのうち山の方では打ち上げ花火が始まった。 結局多くの人が集まって見物していた交差点脇の芝生に私も留まり、そこから遠くの山焼きを眺める事にした。 花火が終わってしばらくすると、林の木々の頭越しにチラチラと赤い影が揺らぎ始め、やがてそれは大きな炎となって夜空に燃え盛った。 間近で観たらもっと迫力のあるものだったかも知れないが、遠くから街灯りの向こうに見るのも趣があって良いものだ。 後から、泊まったホテルの屋上も見学のため特別に開放されていたと知り少々悔しい気もしたが、私の部屋は奈良駅構内がよく見えるトレインビューだったので良しとしよう。


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若草山焼き
近くまでは行き着けず、県庁付近で見学
photo近鉄路線図