近鉄橿原線, 吉野線

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大和八木駅
秋葉原の様に上下の線が直交する

大和八木では15分程の乗り継ぎ時間なので余裕がある。 2階の大阪線ホームから階段を下って地上の橿原線ホームへ。 大阪線は追い抜き可能な島式2面4線だが、橿原線の方は2面2線の相対ホームになっている。 構内を観察しつつしばらく待っているうち、2階建てのビスタカーがやって来た。 停車すると車内から観光客らしき人達が大勢降りて来たので、乗車率はそこそこあるみたいだ。 乗る予定は急行だったが、その3分前に普通列車が入線して来た。 終点までここから3駅だから途中追い抜きは無いだろうとみてとりあえず乗り込み、予定の2分前に橿原神宮前に着いた。

次は吉野線に乗るのだが、ここでの乗り換え時間が元々3分しか無かったので、たかだか2分でも余裕の増えたのは有り難い。 橿原神宮前は京都方向から南下して来る橿原線系統と大阪から東南に向かって進む南大阪線の結節点となっているが、両線のホームは扇型に配置され離れているのだ。 ここから吉野線へと線名を変えて吉野の里へ向かう南大阪線は、他の近鉄路線と違って狭軌の線路となっている。 それはこの線の生い立ちから来るものであろうが、関東で言うと、他路線に対し異派閥的空気を持つ東武東上線みたいな存在であるのかも知れない。

悠々とトイレを済ませ、地上の長い連絡通路を通って一旦地下へ降り、吉野行きの出る乗り場へと登る。 広めのホームはゆったりとしているが、電車を待つ客は割合とまばらだ。 4両編成でやって来た電車の外観はこれまで乗って来たのと同じ近鉄標準スタイルだが、もちろん軌間が異なるので形式は違うものだろう。 発車すると、左手に橿原線の車両達が休憩をしている留置線群を眺めながら構内の終端部へ達する。 スピードが上がって来たので良く確認出来なかったが、一本だけこちらから逆分岐して橿原線ホームの方へ向かっている狭軌の線路があるようだ。

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橿原神宮前駅
狭軌の線路が吉野へと向けて延びていた

単線である吉野線はローカル情緒たっぷりな田舎風景の中を進む。 駅も車内も閑散としていてワンマン運転でも良さそうに思えるが、いちおう吉野山という観光地も抱えた主要路線である為か車掌が乗務している。 JR和歌山線と接続する吉野口駅では交換待ちのため長時間の停車となった。 寒いので一旦ドア閉めが行なわれたが、発車までの間に何度か開扉されたのは乗務員がホームに客の姿を認めたからだろうか。 この車両には乗客がドア開閉操作を行なう為の押釦が装備されていない。

吉野口から先、沿線の車窓はさらに田舎風景となる。 途中福神駅では再び列車交換待ち、やって来た上り特急は2両編成で、短いながらこれぞ近鉄特急の懐かしい塗装だ。 福神を過ぎるとやがて右手に現れるのは吉野川、これは和歌山港へと注ぐ紀ノ川の上流である。 その川面に反射する冬の日差しを窓に受けながら、電車はゆっくりと走って行く。 時々切り通しに入るが、左右を樹林に囲まれた中に誰が通るのか分からない様な踏切がひっそりとあったりして、かなり山深さを感じる。

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大和上市~吉野神宮間
走って来た山裾を見ながら吉野川を渡る

ひらがなだと見た目インパクトのある駅名標になる六田(むだ)駅からは、登り勾配がかなりきつくなる。 次の大和上市を出ると、線路はやおら右急カーブで川に向かい、長い鉄橋で吉野川を渡った。 人影の無い吉野神宮駅を過ぎれば次はいよいよ終点、電車は静々と大屋根に覆われた吉野駅の広いホームに停車した。 降りた客も少ないが、それ以上にお土産屋の並ぶ駅前は静かな空気の中に沈んでいる。 リュックを背負った女性客が一人、窓口で吉野山への行き方を聞いている声が駅前に木霊する。

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吉野駅
桜の時期にはごった返すであろう駅前

近鉄吉野線, 南大阪線

もちろん、吉野山まで行く時間を見込んでいない私はこのまま折り返す。 次の急行に先行するさくらライナーがあったので、特急券を買ってこれで楽をする事にした。 阿部野橋着の時間差25分で510円の料金は、一般客にとってどんなもんだろう。 シーズンオフだし、どうせ空いているだろうとの予測は出来たが、まさか乗った車両に私一人貸切で出発するとまでは思わなかった。 アーバンライナーのようにビジネス客は見込めないだろうし、京都奈良や伊勢志摩のようなメジャーな観光地があるわけでもないので致し方ないのかも。

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吉野駅
余裕のホーム、2線に見えるが外側にも2線

途中の六田駅から初めて老夫婦2名の乗車があり、その先からは駅へ着く毎に席もちらほらと埋まりだす。 車掌が頻繁に通るがここも検札は無しで、指定の売れた席番号に客が座っているかで確認をとるだけのようだ。 乗ったのが最後尾の車両だったので席を立って車掌室側のデッキへ行ってみたら、自由に座れるかぶり付き専用のシートがあってなかなか楽しめた。 しかしお腹がすいてきたな。 乗る前に弁当でも確保したかったが、駅前にそれらしき店はなかったし、もちろん車内販売も期待出来ない。 阿部野橋着は14時を回るが、それまで我慢しなければならない。

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さくらライナー
車掌氏は車内巡回中、後部展望を独り占め

橿原神宮前を発車するとスピードは一気にアップし、さくらライナーは郊外の住宅地帯を疾走する。 ここに来てようやく特急らしくなって来た。 尺土駅を出ると次の停車駅はもう終点の大阪阿部野橋、「ただいま時速105km」の電光表示も誇らしげにノンストップで進んでゆく。 だが道明寺駅の先では線形が悪く急カーブを切り、しばらく最徐行で走行する場面もあった。 高架に上り単調になって来た車窓についウトウトしているうち、家並みの彼方には「あべのハルカス」の高層ビルが望めるようになって来た。

阿部野橋もまた近鉄らしい大きな駅である。 ホームの上には現時点で高さ日本一の摩天楼がそびえている。 一旦改札を出て御堂筋線へ乗り換えるべく、出入口を探す。 通りを歩く人達の中には、時々立ち止まって上空を指さしたりしている人もいる。 何度かデパートの地下に迷い込んだりしながらやっと地下鉄の改札へと到達、近鉄は阿部野橋だが隣接するJRや地下鉄は天王寺駅である。 ホームへと降りて行くが、ここは島式の両サイドから同じ方面が交互に発車するようで、逆方向かと思って一本見逃してしまった。


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大阪阿部野橋駅
ハルカス開業で新装なったターミナル
photo近鉄路線図