~ 富山, 高岡 ~

富山県営渡船

5分程待つと、先程から遠くに見えていた小さな船が待合所の正面に近づき、段々と大きくなって港に接岸。 舷側に「海竜」と書いてあるのが読める。 ランプウェイが降りると観光客や地元の人達含め、たくさんの人々がこのフェリーから下船して来たのに驚かされる。 ここまでの行程が私一人だっただけにこれは意外だった。 自転車を押した人も多く、日常的な足代りになっているのだろうと思われる。 入れ替わりに乗船し、私は2階のオープンデッキに腰をかけた。 誰も登って来ないのを見計らい、途中で仕入れて来たお握りを港を眺めながらパクつくと、海の風が程よく塩味を引き立たせてくれ良いおかずになった。 お昼を食べていたせいか特に合図にも気づかず、景色が流れ出したなと思ったら船は既に出航していた。

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富山県営渡船(越ノ潟フェリー)

バックのまま少し岸壁から離れると、ぐるりと180度回転して対岸を目指す。 右手の湾口上空には非常に高い位置に工事中の橋桁が架かっており、これが完成したらおそらく渡船は廃止されてしまうのだろう。 ちなみにこの越ノ潟フェリー、港を開削した事により失われた道路の代替交通であり、当初付近住民以外は有料だったが今では誰でも無料で乗れる。 また、基本的に道代わりなので24時間運行をしているのだ(一部深夜便は自動車による迂回代行あり)。 船は5分程の航海で富山新港の入口を渡り、あっけなく対岸の越ノ潟に着いた。 岸壁ではこれまた多くの人達が船を待っていたが、この時間帯は逆ルートの方が利用者が多いのかも知れない。 私と一緒に下船した人も何名かいたが皆地元の方らしく、すぐ目の前にある万葉線ホームへと歩を進めたのは「普通でない人」唯一人だけだった。

万葉線

すぐにカンカンと踏切の警報機が鳴り出し、カーブをまわってゴトゴトと古びた万葉線の電車が到着。 どの地でも10分以内の乗り継ぎ時間となっているのは、なかなかうまく出来ているダイヤだ。 万葉線には最新の低床車も走っているが、私としては生活の染み付いた旧型車に乗れた方が何となく嬉しい気がする。 いや、負け惜しみでなく、実際そう思うのだから仕方ない。 時間までに観光客らしき親子連れ3人が乗って来て、総勢4名の乗客で越ノ潟駅を発車。 電車は裏路地のような細い路盤の専用軌道を、緩い曲線を繰り返しつつ抜けて行く。 休日に限り、車内アナウンスに地元ゆかりの立川志の輔師匠のテープが流されるとの事で、各駅付近の見所や歴史等について一言づつコメントが付いているのが面白い。 途中の交換駅では反対方向の線路を、真っ赤なLRTがスゥーっと音も無く発車していった。

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越ノ潟駅

路面電車としては珍しい長い鉄橋で庄川を渡ると六渡寺駅、ここまでが旧射水線の線路で現在は新湊港(しんみなとこう)線。 開削されたのが新港で、ここらの地名が新湊、走っているのが新湊港線… みなとみなとで皆ややこしい。 ここから先は高岡軌道線であり、俄然路面電車らしくなる。 次駅の中伏木を発車すると県道へと斜めに飛び出し、そこからは車道の中央を堂々と南下する事になる。 周囲は工場街と住宅地の混合地帯だが、人通りは至って少ない。 時々、道路真ん中のホームも何も無いところで停車し列車交換を行なうのが、初めてで普段得難い体験だった。 グっと右にカーブして道路から外れると、そのまま道路橋と平行して専用の長い鉄橋で氷見線とその引込み線の上を乗り越す。 志の輔師匠のなかなかマニアックなアナウンスでも、この鉄橋は見ものであると仰っている。

渡り終えて左に曲がると再び道路に乗り、米島口に停車。車庫も併設された大きな交換駅で、この先は複線区間となる。 萩布あたりには路面電車の線路と氷見線からの引込線が平面交差する名所があった筈だが、注意しながら観察していたものの見逃してしまった。 師匠のアナウンスでも触れられていなかったので、既に廃止されてしまったのか。 周囲が徐々に盛り場らしくなり、停留所ごとに乗り込むお客さんも増えて来る。 停車直前にドアが若干フライング気味に開くのでちょっと恐いが、地元のお客さんは慣れっこで何とも思わないようだ。 路幅の問題か広小路で再び単線となり、しばらく進むと一気に90度左折して駅前通りへと凱旋。 通りは何やらお祭り気分、アーケードの各所に七夕飾りだろうか色鮮やかな装飾が風に揺らめく中、終点の高岡駅前に到着した。