夏の青春18きっぷは四国遍歴の旅でその殆どを使用済みだが、手元にはまだ最後の一回分が日付印を押されずに残っている。 ここ最近は近場の乗り潰しも一通り終わってしまい、余っても大抵そのまま失効させていたのだが、今回は輪行ででも消化しようと有効期間最終日を前に目論んだ。 幸い夏の猛暑も一段落して空気も澄んで来たみたいだし、ここは久しぶりにパスハンを引っ張り出してどこかへ出かけようと計画を立てる。 但し坂道を登る気力が出来上がっていないので、あくまでも平らな所という軟弱な条件が付くのであるが...。

で、前々から行きたいと考えていた渡良瀬遊水地へと初めて足を向けてみる事にしたのはいいが、書棚のコースガイドに確か載っていた筈と調べてみても、持っているどの本にも見当たらない。 ようやく見つけたその古い書籍の中の一編には「赤間遊水池」とタイトルが付されており、これが記事の発見を困難なものにしていたのは予想外だった。 国内で最大規模を誇るこの遊水地、その歴史を紐解けば足尾鉱毒事件や建設時の反対運動など負の側面も出て来るが、現在ではアウトドアレジャーの拠点として多くの人々を集めている。

photo栃木駅前

前夜は朝5時に目覚ましをかけて寝たのだが、久々の遠出で気持ちが昂ったのかアラームの鳴る5分位前に目が覚めた。 軽く朝食を済まして自転車に跨り、早朝の茶畑を横切って八高線の金子駅へ。青梅市内から北関東方面へ向かう際は、青梅線を経由するよりこの方が断然近道でロスが少ない。 新装成った金子駅より電車に乗り、高麗川でディーゼルへ乗り換え、高崎からは両毛線で栃木駅へと向かう。 土曜朝8時台の両毛線は混雑するかと心配したが、意外にも8両の長編成で、余裕で座れたのはラッキーだった。

綺麗な高架駅の栃木で下車、この駅は以前に旧市街の街ブラをしに来た際に利用したことがある。 今日はここから遊水地へと向かうのだが、巴波(うずま)川沿いに下って行くこのルートは、どちらかと言うとマイナーな裏コースだろう。 駅前広場に日陰を見つけ、そこで手早く自転車を組み立てた所までは良かったが、勝手を忘れていて踏み出した途端チエーンがフロントギヤとクランクの間に噛み込んでしまうトラブル発生。 何とか外せたが、おかげで指先が油で真っ黒になってしまった。近くの水道で洗ってみたものの、こいつは容易には落ちない厄介者だ。

photo巴波川沿いの道

駅前通りのコンビ二でお昼の買出しを済ませておく。 先ほどの悪戦苦闘による汚い手で、お釣りを受け取る際に少々恥ずかしい思いをした。 それより何より、その脂先で日焼け止めのクリームを腕や顔に塗りたくっているんだから、全く始末に終えないのである。 県道から巴波川沿いの脇道へと入り、スペーシアの行く高架下を潜ればその先には快適な堤防道路が伸びている。 ここは車が入って来ないので安心安全である。路面も天気も良いし、遊水地までは楽勝だ… と、この時点では全くもって甘い考えでいた。

photo巴波川堤防

それから約1時間後、私は汗だくになって疲労困憊で自転車を漕いでいたのである。 このルートを選んだことを後悔していた。 その要因はまず路面、川沿いの堤防道路は最初のうち綺麗な舗装だったが、途中から畑中の作業道路の様になり、未舗装で砂利敷き、ところにより草藪も深く、また雑草を刈ってある場所は鋭い切株の穂先にも注意しなくてはならない。 今日はパスハンで来たからまだ良いものの、細いタイヤだったら引き返していたかも知れない。

そして気温、朝のうちは秋の様な爽やかな冷気が占めていたが、日中にかかるにつれてぶり返した猛暑、加えて走っている場所から来る草いきれがモワっとして湿度も高い。 それから虫、まともに正面を向いていられない程の羽虫の大群が、常に行く先々で切れ間なく舞っている。 下手に口をあけていると飛び込んで来るので、これには文字通り閉口した。 走り始めにすれ違った口ーディ氏がゴーグルとマスクをしていたのは、これが為であったかと後から気づく。

photo巴波川決壊口記念公園

右手から永野川が合流し、巴波川決壊口記念公園を過ぎるあたりまで来ると、さすがに堤防が高く整備されてその上の道も滑らかな舗装になった。 そのうちに、行く手がYの字に分かれている地点に到達、地図をみるとこの左右の道路に挟まれた工リアが遊水地の様だ。 私は左へとハンドルを向けたが、そこからしばらく走ると堤防上の道は行き止まりになってしまった。 無人の監視所のような建物の前に施設の駐車場所があったので、そこへ退避して地図を確認する。

photoY字分岐点

遊水地の東側を南下するルートをとったつもりだったが、どうもどこかで変な脇道にそれてしまったようだ。 ふと視線を感じて目を上げると、現場をパトロールしている職員の車が通りかかり、窓からジッとこちらを見ているところ。 慌てて職員用の駐車場を出て、築堤を下る車道があつたので道なりにしばらく進むと、先ほどのY字分岐で右へそれていった外周道の延長部らしき道へと辿り着いた。 こうなったらもう迷わないように一旦一般道へと出て、調整池の核心部へとワープするとしよう。

photo遊水地横断道路

しばらくダンプの排ガスにまみれて汗だくで車道を走り、途中から遊水地の外堤を跨いでその中心部へと入って行く道路に進む。 さすがに大きな遊水地で、その真ん中を横断する形のこの道は、堤の中へ降りてからがかなり長い。 左右を雑草の原っぱに囲まれて一直線に突っ走ること10分ほどで、ようやく右手へと分かれる分岐が出て来た。 ここを折れて南へ進んだ先が、林間に芝生の貼られた緑地公園となっている。

photo中央部広場

ここまで、裏ルートをとって来たせいもあるが、見かけた自転車乗りは数名程度だ。 売店や駐車場のあるゲート前まで来ると、さすがに多くのサイクリスト達がそこここを流している。 事前に見たサイトには、遊水地の周回道路において自転車は反時計回りに走るのを原則とするような事が書かれていたが、実際にはあまり厳密に運用はされていないようだ。 車も入って来ないし道幅も充分広いので、キープレフトとスピードさえ守れば事故は起きそうにない気がする。

photo中の島

ゲートからさらに一直線に南進して橋を渡ると、遊水地の中で常に水を貯めている谷中湖の中を走る一本道を行き、その先は左右の岸から中央に向かって渡って来る道との湖上の丁字路、「中の島」となる。 ここにも小さな公園があり、大きな柳の並木が爽やかだったので、その下のベンチに陣取ってお昼にした。 四方を湖に囲まれ、目の前の湖面にはヨットも浮かんでいたりして、なかなかパラダイスな光景である。

photo西橋付近から見る中の島

そういえば、この湖はハートの形をしているという事で、昨今はちよつと話題のスポットでもある。 その真ん中で、食後は例によってしばしのお昼寝タイム。 ここまで距離にして20kmちょっとしか走っていないが、しばらくぶりの走行で既に結構な疲労感につつまれている。 頬に湖を渡って来る心地よい風を感じつつ、幸せな午後のひとときを過ごした後、この日は古河駅から輪行して帰途に就いた。

- おわり -