新鉾田駅前の交差点に出る。左に行けば鹿島鉄道の鉾田駅だが、右折して鹿島灘に向かう。実は今回のツーリングには一つ目的があった。この先に、私にとって特別な村があるのだ。初めて訪れるその場所は、実は私と同じ名前なのである。
 田中、山田等の普通の名前だったら、日本中あちこちに同名の場所はあるだろう。しかし私の名前が地名になっている場所は、そこここにあるというものではない。中学校の頃地図でこの場所を発見して以来、一度は訪れてみようと思っていた場所だ。


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 新鉾田駅前の近代的な商店街を抜けると、道は太平洋と北浦とを分けている低い丘を越え、鹿島灘沿岸に帯状に散在する村々へと至る。その地区に入ると、いきなり「○○牧場」「○○製粉所」と続いて、「○○火の見下」の信号から集落の中へと入ってゆく。


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 一通り回って表札を見た限りでは、私と同じ名前の家は一軒も無かった。親の話でも、こちらの方には親戚はない様である。だれかお年寄りでも見かけたらこの村の由来等を聞いてみようと思ったが、閑散として人の気配がない。
 細い路地を、民家の庭先に迷い込んだりしながら村のはずれまで来ると、「竣工平成五年・海岸道入口・○○地区」という真新しい記念碑が立っていた。森に遮られて海が全然見えず、音もしないので意識していなかったが、この村は海岸の崖っぷちにあるのだ。


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 かなりの急坂をフルブレーキでタイヤを滑らせながら下りて行くと、ようやく遥か下の方から潮騒の音が聞こえて来る。明るい砂浜に出ると、期待していた通りの景色が目の前に広がった。
 大きく広がる海、どこまでも一直線に伸びる砂浜、振り返ると緑の這松に覆われた断崖はおもちゃの山の様だ。昔旅したオホーツクの海岸を思い出す。しかし残念ながらここは関東、目の前の静寂を破ってサンドバギーや4WDが何台も走り去る。


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 砂に半分埋もれかけているテトラポットの上に陣取り、ランチとする。紅茶を沸かしながら夢物語に思いをめぐらす。

 きっと我がご先祖様は、この土地にかかわりがあるのだろう。もしかすると、この土地を拓いたのは彼らかもしれない。そしてひょっとすると、彼らはどこからか海を渡ってきて、この海岸から上陸していったのかもしれない・・・と。

■この記事は、ニューサイクリングNo.364 に掲載された原稿を元に、加筆修正したものです。


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