りんりんロード.2

果たして岩瀬までたどり着けるだろうか? そんな不安に追い討ちをかけるように、「ゴトンゴトン」と、タイヤからの違和感がサドルを通して伝わって来た。 あぁぁ、パンクだ~!それも数週間前に換えたばかりの、新品チューブを入れたリアの方だ。 コース脇にあるベンチの所までトボトボと自転車を押して行き、リュックの底から予備のチューブを引っ張り出す。 それはパッチが貼られて継ぎはぎだらけの古いチューブ、先日交換して外した方だが、スローパンク状態だったのを修理して持って来て良かった。

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だがしかし、こんな時に限って普段は手だけで難なく外せるタイヤが、リムに硬く締まって外せない。 あせらない、あせらない。 携帯工具のタイヤレバーを動員して、何とか分離に成功、チューブを換えて、タイヤを収める…。 ポンプで空気を入れにかかるが、「スカッすかっ」とバルブから漏れてしまい、うまく入らない。 「あれーアダプターが壊れてるのか?」ここらで完全に心が折れてしまった。

空気が入らなかったら、ここから折り返して駅まで自転車を押して戻るしかないのか?いや、通りかかった誰かにポンプを貸してもらおうか?あるいは筑波まで行ってそこからバス輪行?色々な思いが頭の中でグルグルと回っている。 しばらく考え込んでいたが、ふと見るとポンプヘッドのレバーが上がっていないのに気づく。 「何だ、初心者でもこんな間違いしないぞ!?」レバーをロックしてポンプを押すと、あっけなく空気は満タンになった。

タイヤをフレームに嵌めて走り出すが、もう予備は無いので、このぼろチューブでどこまで行けるか少々心もとない。 とりあえずもうすぐで筑波休憩所なので、そこまで行って折り返すかどうか考えるとしよう。 そんなことを思いつつ30分程走って行くと、ようやく構内が広がり、多くのライダーが休むホームが見えて来た。 ここは筑波駅跡で、現在は駅前広場がバスターミナルとしても使われている。 私は自転車を立てかけ、ホームに腰掛けてしばし息を整えた。

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さてどうしようかと看板の地図を見ると、ここまでで土浦から20kmほどである。 という事は既に全行程の半分まで来たのか。 と考えると、ここから先は岩瀬へ向かった方が近いという状況となり、それで少々気が楽になった。 時刻もかろうじてまだ12時前だから、次の真壁休憩所まで行ってお昼にしよう。

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再びサドルに跨り、右方向に来た筑波山を遠く眺めながらユルユルと走り出す。 風はまだ吹いているものの、向かい風でなく徐々に横からの風へと向きを変え、然程苦にならなくなって来た。 このサイクリングロード、筑波から先の区間はロード乗りの姿が前半に比べて少なくなる。 別ルートで筑波山へ登るヒルクライム区間があるため、そちらへ向かう人が多いのかも知れないが、もちろん今の私にそんな元気は無い。

ちょっと驚いたのは、このあたりですれ違うドカヘルで自転車に乗った部活帰り?の中学生達が、口々に「こんにちはー」と挨拶して行く事だ。 こちらも慌てて「んちわー」と返すが、昨今は不審者対策で挨拶しない様に指導されている地域も多いので、なかなか新鮮な感じがして嬉しくなった。 昔は地方に行けば普通の事だったものだが…。 その先線路跡は途中で車道と合流し、しばらく歩道と合体して進む。 だがその脇で舗装工事をしている箇所もあったので、そこもいずれ自転車用に分離されるようだ。

それと、この区間を走っていて気になったのが、車道との交差地点間際にある不自然なハンプだ。 これは車とぶつかると危険だから、スピードを緩めさせる為なのだろうか? その割には、車道とクロスしたその先に設けられている箇所もあったりして、何だか意味不明に思う。 さらに、坂でなく道がジグザグに蛇行させられているような所もあった。

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筑波から真壁まではこのルート内で藤沢~筑波(約13km)に次いで長い区間となり、10km弱。 ようやく真壁の駅跡に着くと、桜がまさに満開で出迎えてくれた。 だいぶお腹がすいたし多くの自転車乗りも休んでいるので、私もホーム上の腰掛に陣取り、買ってきたお握りをパクついて人心地。 食後はここでゆっくりしても良いが、一つ先の雨引休憩所が一番目当ての場所なので、もう一頑張りする事にした。

真壁~雨引間は先ほどの半分程度の距離なので、比較的余裕の走りだ。 広大な田園地帯の中を進み、樺穂、東飯田の駅跡を過ぎて少し走れば、前方にこんもりとしたピンクの塊が見えて来る。 遠くから眺めると、その小さな駅は桜の樹々に覆われて、ちょっとした幽玄世界のようにも思える。 桜がちょうど見頃で先客も多く、さすがに静かな花見とはいかなかったが、お昼を食べた真壁よりは落ち着いている。 しばしベンチの上でゴロンと横になり、午睡を楽しむこととした。

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「ところで雨引って駅名は…」 青空をバックに桜の花を下から見上げて愛でつつ、頭の中で考える。 ここ雨引駅は、近くにある雨引観音の参拝客輸送を主な目的に開設された。 だから、もちろんそこからの命名であるだろうが、「雨引」というのは何か雨乞い信仰にでも関係しているんだろうか。 後で調べてみたところによると、やっぱりそうだった。 雨引観音、正式には「雨引山楽法寺」、弘仁12(821)年の夏に大干ばつが発生した際、嵯峨天皇が祈念のために写経し楽法寺に収めたところ雨を呼ぶ事が出来たという事で、「雨引」の山号を賜ったそうだ。

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さて、雨引から終着の岩瀬まで、あともう一息で間に駅は無い。 このあたりはなかなか良い雰囲気で、左右を低山に囲まれた小盆地的な地形の中をどこまでも真っすぐに進む。 強風もようやくおさまり、踏み込むペダルもだいぶ軽くなった。 だが、長距離を走る機会がここしばらくなかった為お尻が若干痛くなって来たので、時おりダンシングで腰を浮かせながら、騙し騙しゴールへと向かう。 県道を斜めに渡り、北関東自動車道の下を潜ってしばらく行くと、彼方に水戸線の電車が走って行くのが見えた。 もうすぐだ!

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やがて右カーブに入るとすぐに左手から線路が寄り添って来て、終点の岩瀬駅に到着。 既に走り終えた人、これから走り出す人など、多くのサイクリスト達で賑わっている。 ホームには先ほど遠くに見えた電車が停車中、ここで上下列車の交換が行なわれるのだろう。 筑波鉄道の方のホーム跡は芝生の広場になっており、駐車場も併設されているので、ここからパーク&バイクライドも出来るようだ。 だが、こちら側には駅の改札口が無いので、鉄道利用者は踏切をグルリと迂回して、向こう側の駅前に出なければならないのが不便であった。 簡素な駅舎に入り、次の電車は…と時刻表を確認すると、昼間の水戸線は1時間に1本、先ほど電車が行ったばかりだから次の発車まで1時間弱。 ひとまず洗面所で顔でも洗って、のんびり自転車をバラすとしようか。

(おわり)
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